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先天性欠如にティッシュマネージメントを併用したインプラント治療により、魅力的なスマイルを得た1症例

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論文・執筆Medical Journal

先天性欠如にティッシュマネージメントを併用したインプラント治療により、魅力的なスマイルを得た1症例

『審美歯科』Vol.29 No.1 2016掲載

緒言

審美領域におけるインプラント治療は、さまざまな材料・術式が報告されている。そのなかで今回ティッシュ マネージメントを行い、「天然歯と歯頸線を合わせる」ことで天然歯と調和し、魅力のあるスマイルを作り出すことを目的とした。

本症例では、先天性欠如歯による審美障害にインプラントを用いることで改善し、良好な経過を得たことを報告する。

症例

患者:19歳9カ月(初診時年齢)、女性
初診:2009年4月8日
主訴:右上乳犬歯の動揺および審美障害
既往歴:特記事項なし
現病歴:患者は上顎両側第一・第二小臼歯、下顎両側第二小臼歯が先天性欠如で、11 年前より矯正歯科治療を開始。上顎両側犬歯を上顎両側第一小臼歯の位置へ移動、上顎両側乳犬歯を保存したうえで矯正歯科治療を終了した。
現症:右上乳犬歯の動揺および患者のリップラインが高いため、歯頸線の不揃いが審美障害を引き起こしていた(図1~3)
診断:上顎右乳犬歯の動揺および審美障害

1. 治療方針および計画

患者はすでに長期間矯正歯科治療を行ってきたので嫌気がさしたのと、大学生生活を矯正装置を装着して過ごしたくないとの理由で、再矯正歯科治療は受け入れなかった。それを考慮したうえで選択しうる方法、材料、治療期間、費用、予後臨床成績など種々の事項を患者に説明した結果、「上顎両側犬歯部にインプラントを埋入し、歯頸線の回復を行う」という治療計画について同意を得た。この計画を立案するにあたって重要視した点は、現存の歯を削らないということ、また将来本人が希望した場合、上顎左右のインプラントを撤去し、矯正歯科治療により犬歯を本来の場所に移動、そのうえで小臼歯部にインプラントを埋入するという治療の可能性を残すということであった。

また、未成年者にインプラント治療を行うことについてはさまざまな意見があるが、当人がまもなく成人であること、年齢的に顎顔面の成長発育はほぼ終了していること、Mischら(1,2)、Thilanderら(3)の文献も参考にし、問題はないとした。

また、今回の治療にあたり治療前、治療途中、治療後の口腔内および顔貌の記録写真を撮ること、またそれらの写真とX線写真の学会誌での使用について承諾を得た。

2. 治療内容

CT撮影、インプラントシミュレーションソフト(i-CAT)、WAX-UP模型などを用いて十分な診査・診断をし、上顎両側乳犬歯を抜歯、暫間義歯を用いてイメージを確認してもらった。即時インプラントという考えもあるが、生物学的幅径を模倣して歯頸線を意図的にコントロールするのが難しいこと、また抜歯窩に適合させるには直径4.3mmのインプラントが選択されるが、インプラントと天然歯の歯間乳頭の幅が狭くなってしまうこと、唇舌的幅径が不足しているため、骨再生誘導法の必要性もありこの症例では不適応と判断した。抜歯直後は即時義歯を装着し、歯肉の治癒を待った(図4)。

抜歯2カ月後、前後の天然歯の歯頸線を参考にニューマイヤーバー(JIADS歯周外科用バー)を用い注水下にて骨形成を行ったうえで、インプラント(Replace Select Tapered NP 3.5×10mm, Nobel Biocare)を埋入した。インプラント体の選択は、再治療を希望した際の撤去のしやすさも考慮した。また歯肉に瘢痕ができるのを避けるため、縦切開は入れなかった(図5~7)。

インプラント埋入3カ月後、二次手術と同時に治療後の歯肉退縮を避けるために歯頸部に部分層弁を形成し、口蓋側より採取した移植片を歯肉と骨膜の間に挟み込む術式で結合組織移植を行った(6,7) (図8, 9)。

その1ヵ月後にプロビジョナルレストレーションを装着し、その形態を調整することでソフトティッシュマネージメントを行い、天然歯との調和も考慮した最終的な歯頸部の位置を決定した(8,9) (図10,11)。

3カ月後に印象採得を行い、2009年4月、ジルコニア・カスタムアバットメント(ノーベルプロセラアバットメント・ジルコニアカム3.3 3D CADD、Nobel Biocare) をインプラントにスクリュー固定した後(図12)

ジルコニア・オールセラミック・クラウン(LAVA, 3 M)をインプラント・セメント「Premier」(白水貿易)にて仮着した(図13~15)。

また、スマイル時の上唇の位置をコントロールできるようにトレーニングをしてもらった(図16)。

3. 治療経過

装着後、最初の1年間は3カ月、その後は6カ月ごとに口腔内の機械的清掃と口腔衛生指導、および咬合の確認を行った。2014年4月の時点で5年が経過しているが、う蝕・歯周病の発生は認められず、アバットメントの緩みや修復物の異常はなく、X線撮影による診査においても歯槽骨の吸収やインプラント体の異常は認められ ない。経過観察中に下顎両側智歯が萌出、咬合に関与してきたため、早期接触部を削合する咬合調整を行った (2014年7月より患者は仕事の都合で海外に在住のため、その後のメインテナンスは行っていない)。

考察

患者の年齢等を考慮し、矯正歯科治療を強く勧めるも受け入れられない場合、欠損を伴う審美回復にはインプラント治療かブリッジによる補綴治療が考えられる。そのような場合、双方の治療の利点・欠点、また予後について十分な説明を行う必要があるが、歯科医師としては天然歯を削ることはなるべく避けたいのが本音であろう。本症例では天然歯の切削を行わないため、本人が希望すればインプラントを撤去することで矯正歯科治療が可能な点が最大の利点と思われる。また審美的な要素を求められる場合には、インプラント上部構造の審美性だけでなく、歯肉とのバランスも重要である。今回インプラントを埋入するにあたって生物学的幅径を模倣し、歯頸部の位置を予測して骨形成を行うこと、また天然歯との近遠心的な距離も考慮することにより、他の天然歯との歯頸線の調和だけでなく、歯間乳頭の幅や高さを合わせることも可能になった。その結果、スマイル時における口元の審美的回復が得られ、良好な経過と患者の高い満足が得られた。患者はコンプレックスを解消されることで性格もより明るくなり、積極性が増したと喜んでいたため、精神的な部分にも得るものがあったと思われる。

したがって本症例は、矯正歯科治療を行わずインプラント治療で審美的回復をする方法として有用性を示した1例と思われる。今後の経過観察においては、右上のアバットメントの角度が強く、補綴物のマージンを浅い歯肉縁下に設定せざるをえないため歯肉退縮が起きやすい点と、下顎両側智歯の萌出に伴う咬合の変化について注意が必要と思われる。

結論

上顎両側犬歯の先天性欠如による審美障害は、ティッシュマネージメントを併用したインプラント治療にて審美性・機能性が回復され、良好な治療結果を得ることができた。

<文献>

(1) Misch CE : Contemporary implant dentistry, 3rd ed, Mosby Elsevier, St. Louis, 346-347, 2007.

(2) Misch CE, D'Alessio R, Misch-Diesh F : Maxillary partial anodontia and implant dentistry-maxillary anterior partial andontia in 225 adolescent patients : a 15-year retrospective study of 276 implant site replacement, Oral Health, 95, 45-57, 2005.

(3) Thilander B, Odman J, Jemt T : Single implants in the upper incisor region and their relationship to the adjacent teeth : an 8 year follow-up study, Clin Oral Implants Res,10, 346-355, 1999.

(4) Chiche GJ, Pinault A : Esthetics of Anterior Fixed Prosthodontics, Quintessence Publishing, Hanover Park, 13-22, 183-187, 1994.

(5) Gargiulo AW, Wentz FM, Orban B : Dimension and relations of the dentgingival junction in humans, J Periodontol, 32, 261, 1961.

(6) Miller PD : Root coverage with the free gingival glaft. Factors associated with incomplate coverage, J Periodontol, 58, 674-681, 1987.

(7) Langer B. Langer L : Subepithelial connective tissue glaft technique for rootcoverage. J Periodontol, 56, 715720, 1985.

(8) Nevins M, Skurow HM : The intracrevicular restrative margin, the biologic width, and the maintenance of the gingival, Int J Periodont Rest Dent, 3, 31, 1984.

(9) Maynard JG, Wilson RD : Physiologic dimensions of the periodontium fundamental to successful restorative dentistry, J Periodontol, 50, 170, 1979.