歯周病は「お口の中だけの病気」ではありません。近年の研究により、お口の中の歯周病菌が血管を通って他の臓器に到達し、全身にさまざまな悪影響を与えることが分かってきました。歯周病専門医の立場から、歯周病と全身の関わりについてご説明します。
歯周病菌はどうやって全身に影響するのか
影響の経路は大きく2つあります。ひとつは、お口の中の歯周病菌そのものが他の臓器に直接感染する場合(歯性感染症)。もうひとつは、歯周病の部位にある細胞が作る炎症性物質や、過剰に活性化した白血球が血管を通って他の臓器に達し、悪影響を与える場合です。
代表的なものとして、感染性心疾患(心内膜炎など)、冠状動脈疾患、肺炎、低体重児出産、敗血症、糖尿病、胃潰瘍、胃がんなどが挙げられます。このような場合、内科的な治療だけでなく、歯周病の治療も並行して行わなければ治癒は得られません。歯周病専門医の受診が必要となる理由です。
歯周病と早産・低体重児出産
近年増えているのが早産との関わりです。母親が歯周病にかかっていた場合、細菌は母体の血液を介して胎盤と胎児に感染します。感染による炎症反応は胎児にストレスを与え、50%の割合で早産となることが報告されています(歯周病原菌が妊婦及び胎児に及ぼす影響/Oral B社より可変引用)。妊娠を考えている方・妊娠中の方は、ぜひ一度歯ぐきの検診をお受けください。
「静かな殺し屋」 — 慢性炎症としての歯周病
米TIME誌の特集「The Secret Killer」では、人間の身体に潜む慢性炎症(普段は痛みを感じない炎症)——歯周病や歯の根の病気もその代表です——が、心筋梗塞やアルツハイマー病を発症させる原因のひとつであることが紹介されました。原因不明のだるさが続き、CRP(炎症が起きると増えるタンパク質)の上昇が見られたら要注意です。
この特集では、歯周病専門医のもとできちんと治療することと、予防として1日30分の運動とフロッシング(デンタルフロスによる歯間清掃)が推奨されています。
高齢者の肺炎と歯周病
歯周病原菌が誤嚥などによって肺に達すると、肺炎を引き起こすことがあります。特に高齢の方では命に関わる誤嚥性肺炎のリスクとなるため、日頃の口腔ケアと歯周病の管理がとても重要です。
糖尿病・生活習慣との関わり
歯周病は糖尿病と相互に悪影響を及ぼし合うことが知られています。また、疲労やストレスによる免疫力の低下で歯ぐきが腫れるなど、生活習慣とも深く関わる「生活習慣病」の側面を持っています。治療とあわせて、生活習慣を整えることも歯周病のコントロールには大切です。
特に注意すべき歯周病原菌 — レッドコンプレックス
口の中の細菌のうち歯周病の原因となる菌群は「歯周病関連菌」と呼ばれます。その中でも特に悪性度が高いのが次の4種類で、「レッド・コンプレックス」と呼ばれています。当院では、リアルタイムPCR法による細菌検査(BML社)でこれらの菌を特定できます。
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Aggregatibacter actinomycetemcomitans
比較的若年の患者から検出されます。病状の進行が早く重症になるのが特徴で、除菌には抗菌療法が必須となります。
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Porphyromonas gingivalis
成人の重度歯周病患者から検出されます。特に病状の進行が著しい部位で高率に検出され、歯周病だけでなく肺炎や心臓病なども引き起こします。通常の治療と併用して抗菌療法を行う場合があります。
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Treponema denticola
進行した歯周病患者から、P.g菌とともに検出されるのが特徴です。
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Tannerella forsythia
歯周組織の破壊が著しく、骨が溶けている部位で高率に検出されます。難治性歯周病の指標として重要な菌種です。
これらの菌が大量に検出された場合、通常の治療だけでは効果が出ないことがあります。そこで細菌検査で菌を特定し、薬を服用して除菌します。これを「抗菌療法」と呼び、主にマクロライド系(アジスロマイシン)やニューキノロン系(シタフロキサシン)の抗菌剤を使用します。抗菌療法はご自身の治癒能力を補助するためのもので、歯周病が薬だけで完治するわけではありません。
全身の健康のためにできること
- 症状がなくても、定期的に歯ぐきの検診を受ける(歯周病治療)
- 毎日のブラッシングとデンタルフロスを習慣にする
- 定期的なクリーニング(PMTC)でバイオフィルムを除去する(予防歯科・メインテナンス)
- 持病(糖尿病・心疾患など)や服用中のお薬(骨粗しょう症治療薬など)は、必ず歯科医師にお伝えください